目 次

3.慢性腰痛をめぐる常識のうそ

運動療法の長期効果・鎮痛剤・牽引に関しては科学的根拠無し!

(冒頭省略)

 このような変革をもたらしたのは,EBMの概念や手法の導入である.これにより,ほかの領域と同様に,腰痛の治療も今大きく変わりつつある.EBMとは,簡単に言ってしまえば, 「根拠に基づく医療」と言える.この結果,我々の常識とされてきたことに,何の根拠のないことが明らかになったり,あるいは治療内容によっては,従来の治療がかえって有害でさえあることも分かってきた.

 EBMの観点から腰痛治療を考えた場合,二つの問題が明らかになってきた.一つは,従来行われてきた治療法のほとんどが,科学的根拠の裏付けに乏しいという事実である.もう一つは,腰痛の発生,増悪,そして遷延化には,以前に考えられていた以上に,心理的そして社会的要因が,早期から重要であるという事実である.EBMという観点から,慢性腰痛に対する治療がどのような点で変わりつつあるかを見てみる.まず,治療の有効性という点について考えてみる.慢性腰痛に対して最もよく用いられている治療は,急性腰痛と同様に,薬物療法である.しかし,薬物療法のうちその有効性が認められているのは,抗うつ剤のみである.鎮痛剤や抗炎症剤の,慢性腰痛に対しての有効性は証明されていない. 
 次に,運動療法について考えてみる.運動療法は,ほかの治療と比べて科学的検証が最も進んでいる分野である.慢性腰痛に対する運動療法は,急性腰痛とは異なり,少ない裏付けしかないが,短期的には集中的で,動的な伸展運動が,より穏やかな運動よりも良い治療効果を得ている.しかし,長期的な効果という点では,明らかな効果は認められていない.

 理学療法も,よく用いられている治療法の一つである.しかし, 従来から行われている骨盤牽引などの理学療法が,慢性腰痛に対して有効であるという報告はない.しかも,高度な機能回復訓練をしたからといって,外来での簡単な理学療法より治療効果が優れているとは必ずしも言えないことが,いくつかの報告で明らかになってきている.費用対効果を考えなくてはならない現在,留意しなければならない点である.腰部コルセットに代表される装具療法もよく適用される治療法である.現在のところ,腰部コルセットが腰痛に対する予防や治療に有効であることを証明した報告はない.逆に,従来,腰部コルセットの長期装着は筋肉を萎縮させると言われてきたが,腰部コルセットの長期装着が腰の筋力を低下させるという証拠も,現在のところ得られてはいない.


(中略)

 一方,EBMという観点からの慢性腰痛に対する治療の再評価が進むほど,医師と患者との間の信頼関係の重要性が認識されるようになってきた.そして,治療する際の,強力で不可解な心理的効用の意義が強調されるようになってきた.しかも、プラシーボ(placebo,偽薬)は強力な治療効果を有するが,その効果は,医師と患者との信頼関係が深いほど高い.EBMという概念・手法の導入により,従来の治療内容が厳しく再評価されつつあり,それにより,最小の医療資源で最大の治療効果を挙げるという目的が達成されつつある.その一方,科学的検証が進めば進むほど,医師と患者の信頼関係の重要性が浮かび上がってきている.EBMは,我々が医学と医療をどう捉えるかということを考えるうえで貴重な事実を提示してくれる.

(福島県立医科大学整形外科教授 菊池臣一) 

(参考文献:平成11年9月号 総合臨床P2241〜2242) 
2008年4月現在、菊池臣一教授は公立大学法人 福島県立医科大学 理事長兼学長をされています。

http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/YoutuuEBM9909.html
から引用しました。


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posted by ケンタロー at 14:33 | 腰痛解放戦線 レビュー